「能力不足」による「降格」の法的リスクと対応策

 ある企業から、「能力不足を理由に社員を降格させたい」とのご相談をいただきました。今回のケースは、懲戒処分ではなく、あくまで「業務遂行能力が期待に満たないこと」を理由とした人事権の行使としての降格です。 

 

1. 「能力不足」での降格が難しくなっている背景

 

   かつては人事権の範囲内として比較的柔軟に認められていた降格ですが、労働契約法の制定後は厳格に判断されるようになりました。 

 

   現在、降格(特に賃金の減額を伴うもの)が認められるためには、以下の要素が必須となります。

 

  • 客観的に合理的な理由があること
  • 社会通念上の相当性(常識的に見て妥当であること)があること 

 

   従業員の(保有する)能力を測定することは難しく、単に「業務上の必要がある」といった漠然とした理由だけでは、不利益変更とみなされ、法的に認められないリスクが高まっています。

 

2. 実態把握:なぜ今回の降格は困難だったのか

 

   状況を詳しく伺ったところ、以下のような実態が判明しました。

 

  • 役割の未定義:会社が期待する役割や具体的な業務内容を本人に伝えていない。
  • 評価基準の欠如:人事評価表が存在しない。
  • 記録の不在:昇給・昇格時の評価が漠然としており、根拠となる記録がない。
  • 形式的な役職付与:給与を上げる便宜上の手段として職位を与えていた。

 

   このような状況では、会社と本人の間で「果たすべき役割」の認識が一致しません。客観性や合理性が不足していると判断されるため、「能力不足」を理由とした降格は極めて困難です。 

 

3. 今後の対応策としての3つのステップ

 

   今回の相談事例では、リスクを回避しつつ組織を適正化するため、以下の改善案をアドバイスし、実行に移すこととなりました。

 

  •  ステップ1:慎重な配置換(賃金維持)
    本人へ十分に説明した上で、まずは賃金を下げずに「配置転換」を行います。安易な降格・減給を避け、法的なリスクを最小限に抑えます。
  •  ステップ2:職務内容の「見える化」
    全社の簡易的な業務フローを作成し、各従業員が「どのような役割を担い、どの業務を遂行すべきか」を明確に定義します。
  •  ステップ3:評価制度の構築と記録
    定義した職務に基づき、行動を評価する「人事考課表」を作成します。評価結果を継続的に記録・保存することで、将来的な人事判断の客観的な証拠を残せる体制を整えます。